第7回研究会のレジュメと報告(黒崎浩行氏)
第7回研究会での黒崎浩行氏(國學院大學)の報告「地域づくりにおける参加機会創出と神社・祭礼―熊本県人吉市の事例から―」のレジュメと報告を掲載します。
*本レジュメからの無断引用はご遠慮下さい。引用される際には、本研究プロジェクトでの黒崎浩行氏による報告レジュメが出典であることをご明記いただければ幸いです。
研究会報告
発表者 黒崎浩行(國學院大學)
「地域づくりにおける参加機会創出と神社・祭礼―熊本県人吉市の事例から―」
報告者 黒崎浩行
本発表は、「宗教の社会貢献活動」というプロジェクトのテーマを、宗教者・宗教団体による社会貢献活動への主体的関与という視点ではなく、社会福祉の基盤となるコミュニティ形成に対する資源提供(櫻井治男)、あるいは福祉文化と宗教文化の接点(板井正斉)といった視点から検討するものである。
福祉社会の基盤であるべきコミュニティの衰退に対して、伝統的なスピリチュアリティの活用による再活性化を期待する言説がある(広井良典『持続可能な福祉社会』(2006)など)。しかし、それはどのようにして可能になるのだろうか。
実際のところ活性化の試みにはさまざまな困難がともなう。祭礼や民俗芸能に関しては、伝承者集団、行政、地元商工業界、観光業界等の諸社会集団間のせめぎあいが指摘され、また居住年数の異なる住民が混在する郊外の神社では、旧住民による再活性化の努力にもかかわらず、新住民との断絶を埋めがたいケースがある。
ここでは、熊本県人吉市に鎮座する青井阿蘇神社の例大祭「おくんち祭」、特に平成18年(2006)に斎行された「御鎮座1200年大祭」を事例として、神社祭礼における参加機会の創出に注目し、その特徴を抽出する。
第一の特徴は、メディア利用による再帰的なアイデンティティ形成である。御鎮座1200年大祭に向けた準備は平成12年(2000)ごろから始められ、平成14年(2002)に「人吉交流大学」というイベントが人吉球磨広域行政組合の事業として行われる。平成8年(1996)に始まった「住民ディレクター活動」を取り入れ、メディア論の研究者やビデオディレクターを講師に迎えて、祭の準備から本番まで、地域住民や学生がビデオカメラをもって取材・撮影し、これを放送した。第2回以降は民間での実施となるが、毎年繰り返され、平成18年はインターネットライブ放送が行われた。このようなメディア利用を通じて、地域の価値の発見がもたらされ、また祭りの参加者にとってもアイデンティティを再帰的に獲得することとなった。
第二の特徴は、世代間伝承の尊重である。おくんち祭の企画運営を担う団体である青井阿蘇神社奉賛会は、高齢(60~80歳代)メンバーが中心で、若手メンバーの発言が難しい状況にあった。そこで宮司の発案により「継承部」が発足する。若手メンバーが高齢メンバーのさまざまなお手伝いをしつつ昔の経験を聞くことを活動として位置づけることにより、若手メンバーの参加による活性化を促しつつも徒弟制的な「実践共同体」(レイヴ&ウェンガー)を維持している。
このような参加機会の創出がもたらすコミュニティ形成への期待や、その成果の実感は、まだ十分に調査・把握しきれていないが、今後運営者以外の参加者へのインタビューや、他地域との比較等を通じて明らかにしていきたい、と結んだ。
以上の発表に対して、次のようなコメント、質問が寄せられた。「コミュニティ形成」の課題が何であるかによってそれを評価する指標も違うのではないか。参加機会創出の第一の特徴に見られたアイデンティティの形成が主観的なものだとすると、それに対応する客観的な関係性はどのように変化し、またそこにメディアを利用した活動はどうかかわっているかが明確でない。祭の担い手にとっての「正統的周辺参加」のメリットが何であるかや、地域に対する思い・覚悟を具体的にとらえてほしい。祭りへの参加機会の「創出」ではなく「喪失」と言える事態が各地で起こっており、それは社会構造の変化によるものであって、今回とりあげられた試みがそれをどれだけ埋められるものなのか。今後、祭りの担い手までも外部から受け入れるといったことが起こりうるのか。いずれも、今後調査を継続していくなかで応えていきたい課題として受け止めた。
| 固定リンク









コメント