第5回研究会のレジュメ(寺沢重法氏)
第5回研究会での寺沢重法氏(北海道大学大学院)の報告「宗教情報データベース(ラーク)にみる宗教の社会貢献活動の整理報告」のレジュメを掲載します。
「terazawa.pdf」をダウンロード
*本レジュメからの無断引用はご遠慮下さい。引用される際には、本研究プロジェクトでの寺沢重法氏による報告レジュメが出典であることをご明記いただければ幸いです。
第5回研究会での寺沢重法氏(北海道大学大学院)の報告「宗教情報データベース(ラーク)にみる宗教の社会貢献活動の整理報告」のレジュメを掲載します。
「terazawa.pdf」をダウンロード
*本レジュメからの無断引用はご遠慮下さい。引用される際には、本研究プロジェクトでの寺沢重法氏による報告レジュメが出典であることをご明記いただければ幸いです。
発表1 吉野航一(北海道大学大学院博士課程1年)
「外来宗教と土着化と信者たちの宗教実践-沖縄本島都市部を事例に-」
報告者 松島公望(横浜国立大学,神奈川県立保健福祉大学非常勤講師)
本発表は,吉野氏の修士論文(第55回北海道社会学会にて発表)および第4回日韓次世代学術フォーラムにおける発表原稿を加筆修正したものであった。発表の詳細は,本ホームページにも掲載される発表資料に譲ることとし,本報告は研究会で特に議論となった修士論文を中心にまとめたいと考えている。
吉野氏は,「従来の土着化研究を乗り越え,より信者の信仰内容に近づいた土着化現象を理解する(資料3頁)」ことを研究の主な目的としている。吉野氏は,土着化を「民俗宗教と外来宗教との『聖なるもの同士の交渉過程』(資料2頁)」と捉え,その観点から,「外来宗教の信者と民俗宗教に依拠する家族とのせめぎあいに注目する(資料2頁)」ことによってその目的を達成しようと試みている。
この試みを達成すべく吉野氏の論文では,まず「沖縄の宗教」,「統計資料から見る宗教状況」を整理した上で,複数の信者から聞き取り調査を行っている。聞き取り調査を行うことは,そのまま吉野氏が掲げた「より信者の信仰内容に近づいた土着化現象を理解する」ことに通ずるものであることはいうまでもない。
聞き取り調査を通して,信者が語る外来宗教の土着化の過程が説明され,本論が展開する。そこには,信者の抱え続けた「摩擦や葛藤」,「(在来の宗教的慣習に対する)懐柔と操作」,「民俗宗教からの分離,回避」,「『土着化』以降と『埋没』への危険性」が詳細に描かれており,外来宗教を受容することで対峙せざるを得ない信者の実態が明らかにされるのである。これらの記述からも,吉野氏自身が「より信者の信仰内容に近づこう」との意気込みが感じられ,さらにその意気込みは意気込みで終わらず,新たな土着化研究の可能性を感じるものでもあった。
そのような可能性を感じるからこそ,質疑応答においても出席者より重要な指摘がなされた。複数の出席者から特に挙げられたのは,「使用された用語の基準(根拠)の定め方」であった。「土着化」,「受容」,「埋没」といった用語を聞き取り調査に基づきそれぞれ定めてはいるが,その基準が明確に示されていないのではないかとの指摘である。それは,信者にとってどの過程を「土着化」とするのか,「埋没」とするのかといった箇所が明確な基準(根拠)に基づいて説明されているのかといったものでもあった。吉野氏自身,これらの指摘については,「信者の語りからこのように捉えることができ,それぞれの用語を定めたが,さらに詳細に基準などを検討していきたい」と応じた。報告者自身,これらの基準(根拠)が整理されることによってこの研究の厚みがさらに増していくことを強く感じるものであった。
これ以外にも「都市化された現在の沖縄をより詳細に検討することの重要性」や「シンクレティズム,土着化,受容との関連から検討することの意義」といった点についても指摘がなされ,有意義な議論が展開された。
吉野氏は,今回発表した内容を起点に博士論文を構築していくとのことである。これら一連の研究が博士論文の形となり,土着化研究にとって新たな視座を与えるものになることを期するばかりである。
発表3 濱田 陽(帝京大学文学部講師)
「戦争と日本宗教の軋轢の彼方へ――『東アジアの終戦記念日』(ちくま新書 2007,7)より」
報告者 大谷栄一(南山宗教文化研究所研究員)
今回の濱田氏の報告は、刊行されたばかりの佐藤卓己・孫安石編『東アジアの終戦記念日』(ちくま新書)所収の濱田氏の論考「戦争と日本宗教の軋轢の彼方へ」を踏まえて、その内容を、「非常時」社会における宗教の社会貢献活動のあり方という問題意識にもとづいて敷衍し、論じたものだった。
まず、濱田氏は、「宗教の社会貢献活動と社会状況」に関する類型として、「非常時」社会における「国策協力」と「社会批判」という新たな類型を提示し、戦中の国策協力を、宗教の社会貢献活動として考えることができるのかどうか、という問題提起を行い、賀川豊彦の満州基督教開拓村の事例について言及した。
また、戦勝国であるアメリカと日本の事例を比較するため、20世紀アメリカの社会関係資本を活性化させた要因が、第二次世界大戦期の市民的義務感に富んだ世代形成にあったとするロバート・パットナムの研究を紹介しながら、戦中の国策協力を論じる際の分析視点を示し、宗教の社会貢献活動を分析するための歴史的な視点の重要性を強調した。ちなみに宗教の社会的価値を、社会関係資本という視点から捉え直すことは、本プロジェクトの基本的立場であり、濱田氏の指摘は、まさに本プロジェクトの根幹に関わるものであると言えよう。
以上の問題意識と問題設定にもとづき、『中外日報』という超宗派の宗教新聞にみる宗教界の終戦記念日に関する認識や動向に関する分析結果が示された。とりわけ、「戦前も戦後も基本的に国家の規制を受け入れつつもバラバラな宗教界が、終戦を伝える玉音放送に対してだけは揃って一致の姿勢を示した」という指摘は興味深いものである。
また、終戦記念日を点として捉えるだけではなく、お盆という文化的伝統に即して捉え直した上で、8月13日から16日までを「戦没者追悼期間」としてはどうか、という刺激的な提言がなされた。
以上から、一国内で各宗宗派が社会貢献活動で協力・提携する上での留意事項として、その協力・提携が難しいこと、象徴天皇というファクターが最終的には無視できないこと、国家の枠にとどまらない、とくに東アジアなどの国際規模の協力・提携が重要であることが述べられ、現代における宗教の社会貢献活動を検討する際、戦前からの連続性の中で分析する史的視座が必要であるとの結論が提示された。
現代における宗教の社会貢献活動を考えるとき、戦前からの連続性(と非連続性)の中で、その特質を分析することが重要であるとの指摘は、報告者も大いに共感するものである。また、国策協力を宗教の社会貢献活動と考えるかどうか、という濱田氏の指摘も極めて重要な問題であり、このプロジェクトにおける不可欠の検討課題であろう。
以上、濱田氏の発表は、参加者に対して、数多くの刺激と問題提起を投げかけた有意義なものであった。
発表2 寺沢重法(北海道大学大学院修士課程1年)
「宗教情報データベース(ラーク)にみる宗教の社会貢献活動の整理報告」
報告者 藤本頼生(國學院大學研究開発推進機構伝統文化リサーチセンター共同研究員)
寺沢氏が体調不良のため、発表資料に基づき、同じ北海道大学大学院の吉野航一氏が代理発表。報道件数や割合などについて、神社神道、伝統仏教、キリスト教、新宗教等でのおおよその傾向を述べた。それを補完する形で、宗教情報リサーチセンターの藤田庄市氏から寺沢氏が分析に使用した「宗教情報データベース」の項目、カテゴリー、媒体の分類、活動内容の分類、報道件数等、それぞれの発表内容についてこれまでのデータベース構築に至る経緯を含めて逐次補足説明とコメントがなされた。北海道大学の櫻井義秀氏から藤田氏は大体の傾向分析はなされていると述べ、さらにこの分析は新聞、雑誌というメディア媒体を通じての分析であり、あくまで宗教の社会貢献活動の大体の傾向を示した近似値を示しているものであるというコメントがなされた。
寺沢氏の発表について、藤田庄市氏から神社神道の社会貢献活動についての傾向について寺沢氏が社会的弱者への貢献が不足しているのではないかという指摘があり、藤本頼生氏からはそれぞれの宗教の社会的性格や実情把握の面での捉え方が不足しているため、一面的なものではなく種々の論考などで補完するなりデータベースに現れない多面的な実情把握もしておかねば、神社神道のみならず、それぞれの宗教の社会貢献活動の取り組みの全容は理解できないとの指摘があった。また社会福祉学からみた宗教の社会貢献活動なのか、宗教の側からみた社会貢献活動なのかでその捉え方、分析の仕方も大きく異なるものであるので、まずプロジェクトとして「社会貢献」概念の確認が必要であるとの認識を示した。
松島公望氏からは寺沢氏の分析はあくまでメディアを通じての数量的分析なので、メディアに取り上げられていない個々の宗教での社会貢献活動の実情的な把握まで突き詰めることは、データベースからの情報分析だけでも莫大な労力を費やすものであり、また研究的な視点が逆に絞りきれなくなると述べ、まずはデータ分析の労をねぎらうとともに研究、分析の視点を明確にし、層化検定や有意差検定、確率法等、統計学的な面での分析をさらに突き詰めておけば、十分な研究成果が得られるとの指摘があった。吉野氏からは媒体の分類について宗教専門誌が35.7%、全国紙が17.2%、地方紙が40.5%、その他新聞が5.9%、雑誌が1.2%と媒体ごとのパーセンテージを示すなど補足説明がなされた。さらに濱田陽氏、中外日報の高橋記者からは媒体では『聖教新聞』が入っていないのは何故か、神社界の機関誌である『神社新報』が入っているのに、『本願寺新報』や『天理時報』がないのはなぜか、がないのは何故かとの質問がなされたが、藤田庄市氏から『神社新報』は神社界中心の専門紙であって、神社新報社を通じて神社界の活動を外部へ唯一報道するものであり、神社本庁から出ている『月刊若木』とは異なるものであるとして、それぞれの報道媒体の説明と宗教情報リサーチセンターのデータベースの意義を説明し、概ね参加者の理解を得た。またそもそもマスコミの報道姿勢の問題があり、年中行事化しており、必ずなされるものや目立ったものでなければなかなか報道されないという事例も多く、その意味での今後、櫻井氏が述べたあくまで「近似値」の分析であっても、その「近似値」をどう学問的に意義付けるかが課題となった発表であったといえる。
最近のコメント